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香月富士日(名古屋市立大学大学院看護学研究科)
鈴木高男(摂食障害家族会ポコアポコ)
山田敦朗(名古屋市立大学大学院医学研究科)
近藤真前(名古屋市立大学大学院医学研究科)
澤田華世(岐阜大学大学院看護学研究科)
渡辺範雄(蘇生会総合病院 精神科)
明智龍男(名古屋市立大学大学院医学研究科)
摂食障害は、ご本人も周りのご家族も病気を理解することが簡単ではないため、本人がつらいのはもちろんのことですが、ご家族も混乱しやすく身体的精神的な負担が大きくなることがわかっています。健康なお子さんをもつ親と摂食障害のお子さんをもつ親を比較すると、摂食障害のお子さんをもつ親(特に母親)は不安やうつ状態が強い状態です1)。特に拒食症のお子さんをもつ母親の精神的負担は大きく(GHQという精神的負担を図る尺度が平均27.7点)、他の精神疾患をもつ人の母親(平均16.4点)と比較しても非常につらい状態ということがわかっています2)。しかし、ご家族が家族会などに参加しサポートを得られると母親の精神的健康状態も改善するようです。実際私たちの前回ご報告した研究でも、母親がサポートを得られていると実感しているほど、母親の孤独感やうつ状態が軽い傾向にありました3)。
今まで、たくさんの摂食障害をもつご本人やそのご家族と接している中で、私たちは摂食障害の回復過程をこの図のように予想するようになりました。
はじめは、摂食障害という病気についてよくわかりません。ご本人もなんでこんなに食べることが怖いのか、なんで過食がとめられないのか、はじめはコントロールできたことがだんだんコントロールできなくなり、混乱します。ご家族もなんで食べないのか、なんで食べては吐くのかわからないことがいっぱいです。そして対処方法もわからない上に相談するところもないので、不安が膨らみます。
しかしその後、母親が家族会や同じ経験をしている友人などのサポートを受けることで、知識を得たり、対処方法を知ったりできます。そして仲間が増えることで、つらい思いをしているのは自分ひとりだけではないと感じ、精神的にも安定します。そうすると、母親に少し余裕ができて、ご本人の話を聞きやすくなります。そうなると、ご本人も母親に話しやすくなり、家庭内で会話が増え、結果的にご本人の自尊心も向上することで、摂食障害症状の改善を促進するのではないかと予測しています。
実際に、スペインの研究論文では、家族が患者さんの話を上手に聴いたり励ましたりすることで患者さんは「家の中は安全で安心して過ごせる」と感じるようになることがわかったと報告されています4)。
研究では、9か月ごとに3回のアンケートにご協力いただきました。アンケート内容は3回とも同じです。
そして57組の親子が3回ともアンケートに回答してくださいました。ありがとうございました。
これは、1回目のご本人からのアンケートの結果です。数字が大きく1に近いほど、その2つの要素の関係(相関)が強いことを示しています。
これをみると、特に自尊心と孤独感は摂食障害症状と強く関係していることがわかります。自信がなくなったり、孤独感が強い時に、過食嘔吐したくなったり、拒食したくなったりするのではないでしょうか?自分に自信をつけることが回復には重要かもしれません。ただ、自信をつけようと思っても、誰でも最初から大きなことはできません。小さなことができたときに、自分をほめて認めてあげましょう。
自分の考えや気持ちをまわりに伝えているかどうかも摂食障害症状と関係がありました。まずは、言いたいことを言葉でご家族につたえてみるといいかもしれませんね。自分の考えや気持ちを言えるようになることが、症状改善にも関係しているのではないかと思います。
家族機能がよいとは、家族がお互い相談できたり、助け合えたりすることです。家族関係の良さと症状も関係がみられました。
次に、1回目アンケートから3回目アンケートの1年半の間のみなさまの変化に注目して分析(共分散構造分析という分析方法)しました5)。
図の一番左の「SPS-10の変化量」というのは、母親がサポートを受けているという実感が1年半でどのように変化したかというのを表しています。左から2番目の「ALASの変化量」は、母親の傾聴態度が1年半でどれだけ変化したかということを表しています。右から2番目の「YASの変化量」というのは、患者さんのアサーティブコミュニケーションの変化量を表しています。つまり、自分の考えを上手に表現することができるようになることです。一番右の「EDI-やせ願望の変化量」は、摂食障害症状の中のやせ願望についての変化量を表しています。
この図からわかることは、母親がまわりからのサポートを受け、サポートが得られているという実感が増加すると、患者さんの話を落ち着いて傾聴することがよりうまくできるようになるようです。『はれものにさわるように』接している状態ではなかなかコミュニケーションを深めることはできませんが、母親へのサポートが増え精神的に安定すると今までできなかったことにチャレンジする勇気も出てきます。
母親が安定して構えてくれると、患者さんも話しやすくなって、こちらも自分の考えを上手に表現することができるようになります。摂食障害をもつ方々は、自分の考えていることを意識化したり、自分の気持ちを説明することが苦手です。ですので、聞き手の方が余裕をもってきいてあげることがとても重要です。
自分のことをうまく話せるようになると、言葉を使って自分の要求を伝えればよいので、「やせる」という手段を使う必要が少なくなり、結果的にやせ願望が減ることになったのだと思われます。
図の右下の数字は、この概念モデルが妥当であることが示されている数字です。ただし、データが57人分でとても少ないので、さらに多くの人で確かめる必要があります。また、摂食障害の他の症状については、今回の分析では明確な結果を得ることができませんでした。そのため引き続き結果を検討していく努力をしているところです。